概要
Graphcelで得たノッチ曲線データの離散的なプロットをBVE用のノッチ曲線データとして完成させるために必要となる補間法のうち、曲線あてはめとその適用例について紹介します。
曲線あてはめとは、得られたデータ(複数の座標の組)に最もよく当てはまるような曲線(の式)を求めることです。そして、曲線あてはめにより得られた曲線の式に規則的な値を代入していくことにより、最終的にBVEで利用可能なノッチ曲線データが得られます。実際の曲線あてはめ作業につきましては、次の表計算ソフトによる曲線あてはめ作業の記事にて解説します。
以下のグラフは、JR107系の力行時ノッチ曲線のうち、速度特性曲線を表しています。曲線あてはめに使用する各ノッチの座標データは、最低限必要となる3点のみ使用しています。適切に曲線あてはめを利用すれば、少ないデータから綺麗なノッチ曲線データを得られることがお分かり頂けるかと思います。
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曲線あてはめに使用する関数
二次関数
二次関数\[y = ax^2 + bx + c\]は主に直流モータの印張力特性曲線に適合します。この場合の無負荷時電流(Current0で使用)は、方程式\[0 = ax^2 + bx + c\]の2つの解のうちの大きい値と見なすことができ、解の公式\[x = {-b + \sqrt{b^2-4ac} \over 2a}\]より求められます。
実例
二次曲線をあてはめた例として、西武101系の力行時ノッチ曲線(速度特性曲線)を以下に示します。Graphcelで得たプロットに対して、二次曲線をあてはめています。
分数関数
二次分数関数
以下の式で表される二次分数関数\[y = \frac{1}{ax^2 + bx + c}\]による曲線はたいていの速度特性曲線や引張力特性曲線にあてはめることができます。この近似曲線の式を表計算ソフトで直接求めることはできませんが、\(y\)の値の逆数\(y'\)を求めて二次関数へと変換しその近似曲線の式を求めることにより、表計算ソフトで上記の二次分数関数の係数を得ることができるようになります。\[\frac{1}{y} = y' =ax^2 + bx + c\]
この関数は、一般にノッチ曲線として図示される範囲にはよくあてはまりますが、範囲外のうち、速度の増大方向では理論曲線の式とは異なるため実際とのずれが大きくなる場合があります。例えば、直巻モータの速度特性曲線は理論的には一次分数関数となるはずですが、電流が大きくなると各種要因により理論式通りの変化をとらなくなります。列車の運転シミュレーションでは大電流より小電流での正確な特性再現が重要であるため、理論式に当てはまらない大電流のデータは捨てて一次分数関数を適用すると、BVEでの利用に向いている速度-電流特性曲線が得られます。一次分数関数の適用法、また実際の適用例はこのあとの「一次分数関数」項をご覧ください。
実例
西武101系の力行時ノッチ曲線(速度特性曲線)を紹介します。まず、Graphcelを利用して得た生データのプロットを以下に示します。
次に、電流の逆数と速度の関係のプロットと、それに二次曲線をあてはめたグラフを以下に示します。
上記のグラフより得られた係数をもとに得られた二次分数関数の曲線データを、オリジナルのデータと組み合わせて表示したグラフを以下に示します。
一次分数関数
以下の式で表される一次分数関数\[y = \frac{1}{ax + b}\]による曲線は速度特性曲線や引張力特性曲線のうち、電流が大きくない部分によくあてはまります。この近似曲線の式もまた、表計算ソフトで直接求めることはできませんが、\(y\)の値の逆数\(y'\)を求めて二次関数へと変換しその近似曲線の式を求めることにより、表計算ソフトで上記の一次分数関数の係数を得ることができるようになります。\[\frac{1}{y} = y' =ax + b\]
実例
西武2000系の力行時ノッチ曲線(速度特性曲線)の一部(直列接続・並列接続のそれぞれ最初と最後のノッチ)を例にして紹介します。まず、Graphcelを利用して得た生データのプロットを以下に示します。
次に、電流の逆数と速度の関係のプロットと、それに直線をあてはめたグラフを以下に示します。
先述の通り、直巻モータは大電流時に一次分数関数に当てはまりにくくなるので、大電流時のデータを切り捨てます(西武2000系は複巻モータ搭載の界磁チョッパ制御車両ではあるが、起動時の抵抗制御時は界磁の比例制御により直巻モータ類似の特性を持つ)。その結果を以下に示します。P1は0.0025以下、それ以外は0.002以下の電流逆数値となるデータを除外しています。
上記のグラフより得られた係数をもとに得られた、一次分数関数の曲線データを、オリジナルのデータと組み合わせて表示したグラフを以下に示します。実用に供するには、Y軸の値がマイナスとなるときは十分大きい値に置き換えるような条件分岐の設定や、S1とS13、P1とP12の曲線がそれぞれ十分に大きな速度で交わるようにデータ点に改変を加えるなどの工夫を行います。